賃貸契約を結ぶ際に、会社が法人契約して従業員のために借りる場合があります。この法人契約は通常の個人契約と異なる点がいくつかあるので、注意が必要です。
たとえば賃貸契約を申し込む際に提出する書類も、個人契約とは異なる種類のものを用意しなければなりません。会社の売上や規模によっても、審査の通りやすさが違います。
そして賃貸物件を法人契約すると、いろんなメリットが生まれる反面、注意すべきデメリットもあります。そこで賃貸物件を法人契約するか検討する際の参考になるように、詳しく説明します。
1 賃貸マンションの法人契約とは
まず賃貸物件における法人契約について説明します。
1-1 会社名義で賃貸契約を結ぶこと
法人契約とは、会社の名義で賃貸物件を借りることです。その目的は大きくふたつあります。
まずひとつめは、会社の従業員に住まいを提供する目的です。社宅として会社が法人契約し、そこに自社の従業員に住んでもらいます。
そしてもうひとつは、フリーランスや個人事業主がオフィスとして、あるいは自宅兼オフィスとして借りるためです。
1-2 個人やフリーランスも契約できる
会社勤めをしていない個人やフリーランスは、安定収入の証明が難しいので賃貸物件を借りにくいという難点があります。
しかし法人契約であれば、事業計画書や課税証明書を提出することで、法人契約により賃貸物件を借りやすくなることもあります。
2 個人契約と法人契約の違い
賃貸契約において、個人契約と法人契約にどのような違いがあるのかを説明します。
2-1 審査の違い
個人契約は個人の収入や借り入れの滞納履歴がないかどうかなどをチェックされます。つまり家賃の支払いを担保するだけの信用があるのかどうかを調べられるということです。
法人契約の場合には、会社の規模や経営状況で信用できるかどうか判断します。事業年数・従業員数・資本金・売上といったものをチェックします。
しかし個人事業主が法人契約する場合にはチェックが厳しくなります。事業内容や課税証明書、決算報告書などにより信用度を判断されます。
2-2 必要書類
個人契約と異なり、法人契約で賃貸物件を借りる場合には、以下のような書類を提出します。
※審査内容はマンションによって異なります
- 会社の登記簿謄本
- 会社の印鑑証明書
- 会社の決算報告書
- 会社案内のパンフレット
- 入居者全員の住民票
- 入居者全員の社員証のコピー
会社に関する書類はもちろんのこと、実際に居住する個人に関する書類も求められることがあります。
2-3 敷金の違い
賃貸物件の個人契約であれば、契約後に支払う敷金は2ヵ月分程度ですが、法人契約の場合にはもっと必要になるケースがあります。
これは個人契約とは違い、入居者が入れ替わることにより汚損や摩耗が多くなる可能性が高いことが理由です。
2-4 保証人が必要になる
多くの賃貸マンションでは、個人契約の場合には保証会社をつけるのが一般的です。
しかし法人契約の場合、会社の代表者が連帯保証人になることを求められるケースがあります。
大手の企業であれば信用もあるので、連帯保証人を必要としない場合があります。しかし設立して間もない会社は、代表者か入居者が連帯保証人になることを求められることがあります。
3 法人契約のメリット
法人契約で賃貸物件を借りるメリットには、以下のようなものがあります。
3-1 家賃を経費にできる
個人事業主が自宅兼オフィスとして法人契約すると、居住用とオフィス用に按分したうえで、家賃を経費として計上できます。
3-2 従業員の家賃負担などが軽減される
会社がある程度の家賃を負担するので、従業員は家賃負担が少なくなります。また会社の近くに物件を借りることで、通勤時間を短くすることにつながります。
通勤の負担が軽減されれば、業務効率の向上にもつながる可能性があります。
また勤務形態が昼夜の交代制の場合、社宅として物件を用意しておけば、従業員も働きやすくなります。
3-3 福利厚生として求人に有利に
会社が社宅として賃貸物件を法人契約すれば、従業員は自分で家探しをする必要がなくなります。つまり、遠方の人材を呼び込むことも可能となるわけです。
一般的に居住地を遠方に替える場合、就職活動と住居探しというふたつの活動をしなければなりません。しかし住む場所が確保されていれば、負担が軽減されます。
3-4 転勤時の住まいを確保できる
社内で転勤が多い会社では、賃貸物件を法人契約しておけば従業員が転勤先で住居を探す手間が省けます。
特に引っ越しシーズンとなれば物件探しも苦労しますし、事前に法人契約で確保しておけば転居もスムーズに行えます。
4 法人契約のデメリット
法人契約にはどのようなデメリットがあるのかを説明します。
4-1 入居審査の書類が多い
法人契約の場合には会社謄本や会社概要書、決算報告書など用意する書類が多くなります。
さらに個人事業主の場合には納税証明書も必要になるケースもあり、個人契約よりも書類を集める手間が増えます。
4-2 事務所として契約できない物件がある
個人事業主が事務所兼自宅として法人契約する場合、申し込みができない物件があります。
これは事業内容にもよりますが、不特定の人が出入りするような事業だと、セキュリティの面で問題があるので契約できない物件があるということです。
4-3 契約できないことがある
社宅としての法人契約を希望しても、契約できないケースがあります。
会社が設立してあまり年数が経っていない場合や、決算報告の内容に問題がある場合には審査が通らないことがあるからです。
4-4 従業員が退職したら個人契約に切り替えることも
会社が法人契約しているマンションに従業員が住み、もし退職したら退去しなければならないとしたらどうでしょう。従業員は転居するための金銭的余裕がなければ、どのような理由があろうと会社を辞めることができなくなります。
これがネックとなり、逆に就職することに難を示す人もいるでしょう。
そこで会社が法人契約した賃貸物件を、居住する従業員が退職の際に希望すれば個人契約に切り替えることができる旨を、契約書に記すことも必要になるかもしれません。
5 法人契約での注意点
賃貸物件を法人契約する場合の注意点を説明します。
5-1 社宅としての法人契約は条項に注意
会社の特定の従業員を住まわせるために賃貸の法人契約を結ぶ場合と、不特定の従業員を住まわせる場合とでは契約内容に違いがあります。
その点に留意しておかなければ、あとでトラブルを発生させることがあるので注意が必要です。
5-2 居住者の入れ替えを認める条項を
賃貸の法人契約では、居住者が退職により退去した場合には、賃貸契約を解除して物件を引き渡すことを条項に記す場合があります。このケースでは、退職した従業員の代わりにほかの従業員を居住させることはできません。
そこで不特定の従業員を居住させる社宅として法人契約するのであれば、人員変更を認める旨の条項を契約書に記載することが大事です。
結婚すれば入居者が増えますし、それを認める条項を入れているかどうかも確認しましょう。
5-3 社内規定の策定に注意
法人契約で物件を借りる場合、会社が負担する家賃上限をいくらに設定するのかにも注意が必要です。というのは、従業員の負担を減らすために家賃の会社負担分を大きくすると、本来従業員から受け取るべき「賃料相当額」との差額は給与としてみなされて課税対象になるからです。
社宅使用料として従業員からいくら徴収すべきかは、国税庁が計算式を公表しています。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm
5-4 物件のセキュリティ面に注意を
会社が法人契約で借り上げて従業員に住んでもらうためには、物件のセキュリティをきちんとチェックしておく必要があります。
比較的新しいマンションはオートロックをはじめ、防犯カメラなどの設備が整っています。しかし社内規定により家賃金額の関係で築年数の古い物件を検討することもあると思います。
古いマンションにはオートロックが付いていないこともあるので、従業員が安心して住める物件かどうかを吟味するようにしましょう。
6 まとめ
賃貸マンションなどを法人契約するためには、知っておくべきことが多いことがわかります。社宅として借りるためには従業員への配慮が必要ですし、個人事業主はいかに審査を通るようにするかを考える必要があります。
※マンション管理会社などにより審査方法、審査基準は違います。